大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)66号 判決 1995年11月08日

兵庫県西宮市川東町一〇-二〇-八一三

原告

宮本喜夫

右訴訟代理人弁護士

青木佳史

鈴木康隆

森信雄

大阪市浪速区難波中三丁目一三番一九号

被告

難波税務署長 津村俊雄

右指定代理人

阿多麻子

石井洋一

高島喜美士

山本加津男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担といる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が平成元年三月一四日付けでした次の各処分を取り消す。

1  原告の昭和六〇年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額九八万七五六〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成元年七月七日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)

2  原告の昭和六一年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額一〇三万円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成元年七月七日付けの異議決定により一部取り消された後のもの)

3  原告の昭和六二年分の所得税に対する更正のうち、総所得金額一五二万円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、総所得金額については平成二年六月一四日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、金属受託加工業を営む白色申告者である原告が、昭和六〇年分から昭和六二年分まで(以下「本件係争年分」という。)の所得税について確定申告をしたところ、被告が原告の売上金額を基に同業者比率によって算出所得金額を推計して事業所得金額を算出し、更正及び過少申告加算税賦課決定を行ったので、原告が被告の課税処分には推計の必要性も合理性もなく、被告が推計により算出した事業所得金額は原告の実際の所得金額を上回っているとしてその実額を主張し、右各課税処分の取消しを求めている事案である。

一  本件課税処分等の経緯

原告の本件係争年分の各所得税の確定申告、課税処分及び不服申立ての経緯は、別表一記載のとおりである(以下、本件係争年分の更正及び過少申告加算税賦課決定を総称して「本件各更正」及び「本件各賦課決定」という。)。(当事者間に争いがない。)

二  本件各更正及び本件各賦課決定の課税根拠についての被告の主張

1  本件係争年分の事業所得金額及びその算出根拠

被告は、次のとおり、推計の方法によって原告の本件係争年分の事業所得金額を算出した。

(一) 昭和六〇年分

(1) 総収入金額(売上金額) 二二七四万三八二九円

右金額は、被告が原告の取引先等に対する反面調査によって把握し得たものであり、その内訳は、別表二の2記載のとおりである。

(2) 算出所得金額 六二九万三二一七円

右金額は、(1)の金額に、原告と業種及び事業規模等を同じくする個人事業者(以下「比準同業者」という。)の算出所得率(売上金額に対する算出所得金額の割合。ただし、算出所得金額は、売上金額から必要経費を控除した金額であるところ、右必要経費には、特別経費である利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、税理士報酬、減価償却資産の除却損及び主として記帳事務に従事している青色事業専従者給与の金額は含まれない。)の平均値(以下「平均算出所得率」という。)二七・六七パーセントを乗じて算出したものである。右平均算出所得率の算出方法は、別表三記載のとおりである。

(3) 特別経費 六五万四〇〇〇円

右金額は、原告が株式会社グランドピジョンから賃貸している大阪市浪速区桜川四丁目四番一〇号ニューグランドビル五〇一号所在の事業所(以下「原告事業所」という。)の賃借料である。

(4) 事業所得金額 五六三万九二一七円

右金額は、前記(2)の算出所得金額から(3)の特別経費を控除した金額であり、原告の総所得金額と同額である。

(二) 昭和六一年分

(1) 総収入金額(売上金額) 三一二一万七一九四円

右金額は、被告が原告の取引先等に対する反面調査によって把握し得たものであり、その内訳は、別表二の2記載のとおりである。

(2) 算出所得金額 八三三万四九九〇円

右金額は、(1)の金額に、比準同業者の平均算出所得率二六・七〇パーセントを乗じて算出したものである。右平均算出所得率の算出方法は、別表三記載のとおりである。

(3) 特別経費 六五万四〇〇〇円

右金額は、原告事業所の賃借料である。

(4) 事業所得金額 七六八万〇九九〇円

右金額は、前記(2)の算出所得金額から(3)の特別経費を公序した金額であり、原告の総所得金額と同額である。

(三) 昭和六二年分

(1) 総収入金額(売上金額) 二八六五万三六五五円

右金額は、被告が原告の取引先等に対する反面調査によって把握し得たものであり、その内訳は、別表二の2記載のとおりである。

(2) 算出所得金額 七九一万九八七〇円

右金額は、(1)の金額に、比準同業者の平均算出所得率二七・六四パーセントを乗じて算出したものである。右平均算出所得率の算出方法は、別表三記載のとおりである。

(3) 特別経費 六五万四〇〇〇円

右金額は、原告事業所の賃借料である。

(4) 事業所得金額 七二六万五八七〇円

右金額は、前記(2)の算出所得金額から(3)の特別経費を控除した金額であり、原告の総所得金額と同額である。

2  本件各更正の適法性

本件各更正における原告の総所得金額は、いずれも右1の本件係争年分の原告の総所得(事業所得)金額の範囲内であるから、本件各更正は適法である。

3  本件各賦課決定の適法性

被告は、本件各更正によって原告が納付すべき所得税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てた金額、以下同じ。)を基礎として、国税通則法六五条一項及び二項(ただし、昭和六〇年分及び昭和六一年分については、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に基づき、昭和六〇年分及び昭和六一年分については、原告が新たに納付すべき各税額に一〇〇分の五を乗じた金額と、右各税額のうち五〇万円を超える金額に一〇〇分の五を乗じた金額の合計額を、昭和六二年分については、原告が新たに納付すべき税額に一〇〇分の一〇を乗じた金額と、右税額のうち五〇万円を超える金額に一〇〇分の五を乗じた金額の合計額をそれぞれ過少申告加算税として本件各賦課決定を行ったものであり、本件各賦課決定は適法である。

三  争点

本件においては、本件各更正及び各賦課決定の適法性が争われているが、本件の争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は、次のとおりである。

1  推計の必要性

(一) 被告の主張

被告は、原告が提出した本件係争年分の確定申告書に記載された事業所得金額が適正なものであるか否かを確認するため、部下職員に原告の所得税調査(以下「本件調査」という。)を命じた。

右調査担当職員は、昭和六三年四月一四日から六月二二日までの間、四回にわたり原告の事業所に赴き、電話連絡を試みるなどしたが、原告と接触することができず、連絡を求める旨の伝言に対しても原告本人からの応答はなかった。原告は、反面調査開始後の同年六月二九日になってようやく本件調査に応じたが、その際、原告の提示した資料に記載された内容は不十分なもので、反面調査の結果とも一致しなかった。そこで、右調査員は、原告に対して原始資料の提示を求めたが、原告は、これを拒否し、同年七月二九日には、一方的に昭和六二年分の所得税につき修正申告書を提出した上、修正申告により本件調査は終了したはずであるとして、調査に非協力的な態度を取り続け、自らの事業所得の計算根拠を全く明らかにしなかった。

そのため、被告は、原告の本件係争年分の事業所得金額を実額によって把握することができず、反面調査によって把握し得た原告の総収入金額を基礎として、右所得金額を推計の方法によって認定せざるを得なかった。

(二) 原告の主張

原告は、昭和六三年六月二九日には、調査担当職員に対して収支集計表、総勘定元帳、給与台帳、売上明細表、領収証等を提示し、その後も本件調査に積極的に応じる態度を示していた。ところが、右調査員がそれ以上資料の提示を求めなかったので、原告は、本件調査は終了したものと理解して修正申告をしたところ、新たに調査担当となった被告職員は、いきなり反面調査を実施し、原告に来署するよう強要した上、これを拒否すると直ちに本件調査を打ち切った。

このように、原告は、本件調査に協力しており、原告に対する質問調査によって実額課税が可能であったのであるから、推計の必要性がないことは明らかである。

2  推計の合理性

(一) 被告の主張

(1) 被告は、前記のとおり、反面調査により把握した原告の総収入金額に基づき、比準同業者の平均算出所得率を用いて原告の本件係争年分の事業所得金額を推計の方法により算出した。

(2) 比準同業者については、原告の事業所を管轄する難波税務署又はこれに隣接する六税務署の管内に事業所を有し、かつ、金属受託加工業を営む個人事業者のうち、本件係争年分を通じて次のすべての条件(以下本件抽出基準」という。)を満たす者(以下「本件比準同業者」という。)を抽出した。

ア 本件係争年分において青色申告の承認を受け、青色申告書を提出している者

イ 年間を通じて金属受託加工業を継続して営んでいる者

ウ 金属受託加工業以外の業種目を兼業していない者

エ 本件係争年分の売上金額が一一五〇万円以上、六二〇〇万円未満の範囲内である者

オ 仕入れのない者

カ 製造用又は加工用の機械を所有又は貸借していない者

キ 本件係争年分の所得税について、不服申立て又は訴訟係属中でない者

(3) 以上のとおり、本件比準同業者は、業種、業態、事業規模等において原告と類似性を有しており、特殊事情のある者は除かれているから、本件抽出基準には合理性がある。また、被告は、本件抽出基準に該当する者を漏れなく抽出しているから、その抽出過程に恣意の介在する余地はなく、本件比準同業者は青色申告者であるから、資料の正確性も担保されている。

したがって、本件における推計の方法には合理性がある。

(二) 原告の主張

被告の推計方法は、次のとおり、合理性を欠くものである。

(1) 本件抽出基準では、当該金属受託加工業者が鉄鋼関係、板金関係、ボルト・ナット類関係等のいずれの業種を営むか、従業員の派遣先作業所がどこに所在するか等、算出所得率に影響を及ぼす事項が何ら考慮されていない。また、本件抽出基準によると、注文主から無償で機械を貸与されて自己の作業所で作業に従事する者も抽出され、本件比準同業者には、専ら注文主に従業員を派遣している原告とは業態を異にする者が含まれることになる。

(2) 被告は、本件比準同業者の氏名、住所、経費の明細等について明らかにしないから、被告の主張する算出所得率には何ら信用性がない。

(3) 被告は、本件訴訟提起後、原処分や審査請求の裁決の際の比準同業者とは異なる本件比準同業者を抽出しており、その抽出範囲の変更は恣意的である。

3  原告の本件係争年分の実額による事業所得金額

(一) 原告の主張

原告の本件係争年分の総収入金額(売上金額)及び経費の各費目の実額は、別表四記載のとおりであり、これによれば、原告の本件係争年分の事業所得金額は、昭和六〇年分が七二万九二二〇円、昭和六一年分が四一万八九三七円、昭和六二年分が二七三万八〇一九円である。

(二) 被告の主張

(1) 納税者が、課税庁の推計による所得金額を争ってその実額を主張する場合には、単に収入金額及び必要経費の一部を主張、立証すれば足りるものではなく、その主張する収入金額がすべての取引先からの総収入金額であること及びその収入と対応する必要経費が実際に支出され、当該事業と関連性を有することを主張、立証しなければならない。

(2) 被告が反面調査により把握した原告の売上金額は、原告の取引先である訴外大和鋼業株式会社(以下「大和鋼業」という。)の回答及び福徳銀行桜川支店の原告名義普通預金口座(以下「本件口座」という。)への入金状況によって明らかになったものに限定されているところ、原告の決済小切手を他の銀行で換金していることや、右入金状況から他に取引先があることが明らかであるにもかかわらず、原告がこれに関する資料を提出していないことからすれば、右売上金額が被告の全収入であるはずがない。

(3) 原告が主張する必要経費には、その支出を裏付ける領収証等の提出がないもの、家事上の支出であるか事業遂行上の支出であるか不明のものが含まれており、これらを必要経費と認めることはできない。また、原告の主張する必要経費が収入金額と対応するものであることの立証もない。

第三争点に対する判断

一  争点1(推計の必要性)について

1  証拠(甲二の一ないし一二、一五の一ないし一一、四八、乙一ないし四、一九ないし二二、証人日高康昭、証人水川福久、証人森善也、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、本件係争年分の所得税について、いわゆる白色申告書により確定申告をした。被告は、右申告書を検討した結果、原告の申告した所得金額がいずれも「0」となっていて、事実の性質等からして不自然な点もあることから、調査の必要性があると判断し、被告所部職員である日高康昭調査官(以下「日高係官」という。)に本件調査を命じた。

(二) 日高係官は、昭和六三年四月一四日、本件調査のため原告の事務所に赴いたところ、不在であったので、来訪目的及び連絡を求める旨を記載した連絡箋を郵便受けに投函して帰署したが、その後原告から何の連絡もなかった。そのため、日高係官は、同年五月九日、再度原告事務所を訪問したが、このときも不在で、前回同様連絡箋を投函して帰署した。ところが、その後も原告から全く連絡がなかったことから、日高係官は、同月一二日、一四日に原告事務所に電話をしたが、いずれも原告が不在のため、取次の女性に伝言を依頼した。この間、原告は、浪速民主商工会に勤務する森善也に相談し、同月一六日、森を通じて日高係官に対し、六月まで本件調査を待って欲しい旨電話連絡をした。

(三) 日高係官は、原告の要請を受けて六月になるのを待ち、同月九日、原告の事務所に赴いたが、不在であったため、同様の連絡箋を投函して帰署した。ところが、その後も原告からは何の連絡もなく、日高係官が同月一三日に電話をしたときも、同月二二日に原告事務所を訪問したときも、原告は不在であった。そこで、日高係官は、本件調査に協力してもらえないならば、独自調査を開始する旨記載した連絡箋を投函して帰署したが、その後も原告側からの連絡が一切なかったことから、やむなく同月二四日、原告の取引先である大和鋼業に対する反面調査を開始した。

(四) 日高係官は、同月二四日、森から同月二九日であれば原告の都合がつく旨の電話連絡を受け、同月二九日午後一時頃、原告事務所を訪問したところ、原告及び森が待機していた。そこで、日高係官は、原告から事業概要の聞き取りを実施した後、確定申告に記載された所得金額の計算根拠について説明を求めた。その際、原告から、総勘定元帳、収支集計表(乙一九)、給料台帳(甲二の一ないし一二、一五の一ないし一一)及びビニール袋に一纏めにされた未整理の領収証等の提示を受けた。総勘定元帳は、ルーズリーフ式の鉛筆書きの台帳で、いずれの記載にも筆跡に乱れがないことから、後日まとめて記入されたものであることが明らかであった。収支集計表(乙一九)は、本件係争年分の売上、経費等に関する一年毎の集計結果を一枚の表にしたものであったので、日高係官は、まず売上金額について、総勘定元帳と収支集計表(乙一九)を比較照合したところ、これらの記載自体に齟齬は見当たらなかったものの、大和鋼業に対して行った反面調査の結果とは一致せず、出入金を継続的に記載した金銭出納帳や銀行帳等の提示がなかったため、それ以上の調査確認は困難であった。また、原告の経費の大部分を占める外注工賃についても、総勘定元帳と給料台帳の記載に齟齬は見られなかったものの、その裏付けとなる領収証が一部しか存在せず、その記載にも外注先の住所が記載されていないなどの不備が見られた。このほか、減価償却費、修繕費等についても、取得金額及び年月日、支出等を確認できる原始資料が存在せず、給料賃金の支払先も不明であった。そこで、日高係官は、さらに調査を続行することにし、原告に対し、減価償却費、修繕費等に関する原始資料を取り揃えた上で調査に協力するよう指示し、午後四時頃、帰署した。

(五) 日高係官は、その後原告から原始資料が揃った旨の連絡がないことから、同年七月頃、原告に対して電話をしたところ、その後、森から、盆明けまで調査を待って欲しい旨の電話連絡を受けた。さらに、日高係官は、同月二八日、森から、借入の必要上、昭和六二年分所得税の修正申告をする旨の電話連絡を受け、修正申告がされても本件調査を続行する必要がある旨説明したが、原告は、同月二九日、昭和六二年分所得税についての修正申告書を提出した。

(六) 被告の内部異動により、新たに本件調査の担当者となった水川福久上席調査官(以下「水川係官」という。)は、同年八月一九日、原告の事務所に赴いた。その際、原告が不在であったため、水川係官は、同月二二日午前一〇時に訪問する旨の連絡箋を投函した上、右日時に来訪したが、前回同様原告は不在であった。水川係官は、再度同月二六日午前一〇時に訪問する旨の連絡箋を投函し、右日時に来訪したが、このときも原告は不在であり、この間、原告から何の連絡もなかった。そこで、水川係官は、大和鋼業に対して書面による照会を実施するなど、反面調査を進めることにした。

(七) 水川係官は、同年一二月五日、七日にも原告との接触を試みたものの、功を奏さず、同月一四日、ようやく原告事務所において原告に会うことができた。ところが、原告は、一五日に調査の約束をしていたはずであると主張して譲らず、修正申告により本件調査は終了したはずであるとして調査に協力することを拒否した。水川係官は、一五日は既に予定が入っていて臨場できないことを説明し、午前中に来署して調査に協力するよう求めたが、原告は、これを拒否し、翌一五日には来署しなかった。水川係官は、平成元年二月二三日にも原告事務所を訪れ、同年三月一日に来署するよう記載した連絡箋を投函したが、原告からは、何の連絡もなかった。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、被告担当職員が昭和六三年四月一四日から六月二二日までの間、五回以上にわたって原告の事務所に臨場又は電話連絡したにもかかわらず、原告は常に不在で、本件調査への協力を要請する連絡箋や伝言に対しても直接応答することはなかったこと、右職員が同月二九日に臨場した際、原告から総勘定元帳等の帳簿書類の提示はあったものの、支出を裏付ける原始資料が揃っておらず、売上金額についても右帳簿書類の記載と反面調査の結果とが相違したが、金銭出納帳、銀行帳等の提示がなく、これを解明することができなかったこと、原告は、原始資料を取り揃えた上で調査に協力するよう指示されていたにもかかわらず、昭和六二年分所得税の修正申告書を提出しただけで、その後五回以上にわたり被告担当職員から連絡を求められても、これを無視し続け、さらに、同年一二月一四日には、修正申告により本件調査は終了しているとして本件調査を拒否する態度に出たこと、被告担当職員は、その後も原告との接触を試みたが、原告から何の連絡もなかったこと等を指摘することができるのであって、これら諸点に鑑みれば、被告が、原告の事業所得金額について、原告に対する質問調査によって把握することが不可能であると判断し、独自の調査を行った上、これを基礎として推計の方法によって右金額を算出したことはやむを得なかったというべきである。

そうすると、本件においては、推計の必要性が認められるから、被告が推計の方法により原告の所得金額を算出したこと自体に違法はないと解するのが相当である。

三  争点2(推計の合理性)について

1  被告は、本訴において、原告の業種を金属受託加工業であるとした上、被告が反面調査等によって把握した売上金額を基礎として、比順同業者の平均算出所得率を用いて、原告の本件係争年分の事業所得金額を算出している。

2  そこで、右推計方法の合理性について検討する。

(一) 証拠(乙五ないし一八、証人刀禰正晴)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 大阪国税局長は、原告の事業所を管轄する浪速税務署並びにこれに隣接する西税務署、港税務署、南税務署、天王寺税務署、阿倍野税務署及び西成税務署の各署長に対し、平成三年五月一七日付けで「『同業者調査票』の提出について」と題する一般通達(以下「本件通達」という。)を発し、右税務署の管内に事業所を有し、かつ、金属受託加工業を営む個人業者の中から、本件抽出基準に該当する者をすべて抽出して報告するよう求めた。本件抽出基準のうちエの基準は、実額で把握できた本件係争年分の原告の売上金額が昭和六〇年分二二七四万三八二九円、昭和六一年分三一二一万七一九四円、昭和六二年分二八六五万三六五五円であったことから、その上限を昭和六一年分の概ね二倍、下限を昭和六〇年分の概ね二分の一の範囲内としたものである。また、オ及びカの基準は、原告が製造用の機械を所有又は賃借しておらず、材料等をすべて注文先から供与され、自らは仕入れを行っていないことから、このような原告の業態との類似性を確保するために設定されたものである。

(2) 本件通達を受けた各税務署長は、それぞれの部下職員に調査を命じ、青色申告書の記載に基づき本件抽出基準に該当する者をすべて抽出した上、大阪国税局長に報告した。このようにして報告された本件比準同業者は、合計一一名であり、その売上金額、算出所得金額、算出所得率は、別票三記載のとおりである。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) 右認定事実によれば、本件抽出基準は、業種及び業態の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別するための要件として合理的なものであり、その抽出過程に被告の恣意が介在する余地はないというべきである。また、本件比準同業者は、いずれも帳簿書類の裏付けを有する青色申告者であって、不服申立て又は訴訟係属中の者が除外されていることに照らすと、その売上金額及び必要経費等の算出根拠となる資料の正確性も担保されているということができ、本件比準同業者の数も一一名であって、同業者の個別性を平均化するに足りるものと解される。

そうすると、本件比準同業者の平均算出所得率を用いて原告の事業所得金額を推計した被告の推計方法には、合理性があるというべきである。

(三) この点に関し、原告は、本件抽出基準によっては、金属受託加工業の中の具体的な業種、従業員の派遣先等の算出所得率に影響を及ぼす事情が何ら考慮されておらず、また、注文主から無償で機械を貸与されて自己の作業所で作業に従事する者も抽出される結果、本件比準同業者には原告と業態の類似性のないものが含まれる旨主張する。

しかしながら、推計による課税は、信頼し得る調査資料を欠くために納税者の所得金額を実額調査することができない場合に、これに代わる補充的手段として合理的な推計方法によって所得金額を認定し、課税するものであるところ、原告と比準同業者の類似性を過度に要求することは、推計による課税そのものを不可能とすることになりかねず、所得税法が推計による課税を認めている以上、業種及び業態、事業所の近接性、事業規模等の基本的な要因において比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存する程度の個別的な営業諸条件の差異は、推計を不合理なものとする程顕著なものでない限り、その平均値を算出する過程で捨象されるというべきである。

原告は、本件抽出基準の問題点として、金属受託加工業の中の具体的な業種、従業員の派遣先等が考慮されていないことを挙げるけれども、これらの要因が平均算出所得率の計算上、具体的にいかなる影響を及ぼすかについては、何ら主張、立証がなく、推計を不合理なものとする程の顕著な差異をもたらすものと認めることはできない。

また、原告は、その業態の特殊性として、専ら注文主の作業所に従業員を派遣していることを挙げているけれども、被告は推計方法においては、自己の作業所で作業に従事する場合に生ずる可能性のある作業所の償却費、地代家賃及び借入利息等は、特別経費として除外され、算出所得率算定の基礎とはされていないのであるから、右業態の差異そのものが算出所得率に影響を及ぼすものでないことは明らかであり、したがって、この点をもって推計を不合理なものとする特殊事情であるということはできない。

さらに、原告は、本件比準同業者の氏名、住所等が秘匿されていること、本件比準同業者が原処分や審査請求の裁決の際の比準同業者とは異なること等を挙げて、被告の推計方法が恣意的である旨主張するけれども、税務職員は自己が職務上知り得た秘密を守ることを法令上義務付けられているのであるから(所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項)、本件比準同業者の特定が可能となるような事項を秘密にすることはやむを得ないところであるし、本件訴訟のように白色申告に係る所得税の更正等の違法性を争う訴訟においては、問題は当該更正等の基礎とされた所得金額が証拠によって認定された原告の所得金額を上回らないものであるか否かということであるから(最高裁昭和四九年四月一八日訟務月報二〇巻一一号一七五頁)、被告がその主張に係る所得金額について当該更正等の後に収集した資料によってこれを立証することを妨げられるものではないことはいうまでもない。

3  そこで、被告の主張する推計方法によって、原告の本件係争年分の事業所得金額について検討する。

(一) 推計の基礎となる原告の本件係争年分の売上金額

(1) 本件係争年分の売上金額についての当事者双方の主張は、被告については別表二の1及び2記載のとおりであり、原告については別表四記載のとおりであって、大和鋼業に対する売上金額については当事者間に争いがない。

(2) そこで、右当事者間に争いのある本件口座における大和鋼業以外からの入金分(以下「本件入金分」という。)について検討する。

<一> 当事者間に争いのない事実に、証拠(乙二〇ないし二二、二三の一及び二、証人刀禰正晴、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

<1> 原告は、本件口座をその事業に係る売上の入金口座として利用しており、本件係争年分における大和鋼業に対する売上は、全額本件口座に入金された。もっとも、右売上の大部分は、小切手で決済されていたが、原告は、右小切手をその振出銀行において現金化した上、本件口座に入金していたため、本件口座の普通預金元帳からは入金先を特定することができず、被告は、大和鋼業に対する反面調査の結果と照合してはじめて、同社からの売上が本件口座に入金されていることを確認することができた。

<2> 本件口座の普通預金元帳には、大和鋼業に対する売上分以外にも多数回にわたる入金が記録されている。被告は、右元帳の摘要欄を調査検討し、これらの入金の中から、預金利息、金融機関からの借入金、本件口座の赤字繰越を防ぐための入金と考えられるものを除外し、取引先からの売上であることが確実であると判断したもののみを本件入金分として、本件係争年分の原告の売上金額に算入した。

<3> 被告は、反面調査の結果、本件係争年分以外については、大和鋼業以外の原告の取引先を把握することができたが、本件係争年分については、その取引先を具体的に特定することはできなかった。以上の事実が認められる。

<二> 右認定事実、殊に本件口座が原告の売上の入金口座として利用されており、大和鋼業に対する売上以外にも多数回にわたる入金があること、本件入金分は、預金利息、借入金等、通常考え得る売上以外の理由による入金の可能性があるものを除外したものであること、原告は、少なくとも本件係争年分以外においては、大和鋼業以外の取引先を有していること等に照らすと、本件入金分は、原告の売上であると認めるのが相当である。

もっとも、この点に関し、原告は、本件入金分のうち、昭和六一年八月一一日入金分については、オートローンを利用して富士銀行西宮支店から借り入れた一五〇万円に手持金を足して入金したものであり、それ以外については、銀行融資を受ける目的で母親から一〇〇万円を借り入れた上、手持金を上乗せして入金し、売上を仮装したものであって、いずれも取引先からの売上ではない旨主張し、原告本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分がある。

しかしながら、まず、昭和六一年八月一一日入金分については、確かに証拠(甲四六の一及び二)によれば、原告が昭和六一年八月一一日に富士銀行西宮支店から一五〇万円を借り入れたことが認められるけれども、他方、証拠(甲四五)によれば、原告が同日、富士銀行西宮支店から大和銀行桜川支店の第三者名義の普通預金口座に一五〇万円を振込送金していることも認められるのであるから、同日、本件口座に入金された金員は、右借入金とは別個のものであるとみるのが自然であるし、これ以外の入金分についても、証拠(甲四二及び四三、七三、七五)によれば、原告が右入金の後に金融機関から融資を受けていること及び国民金融公庫では融資相談の際に預金通帳の提示を求めていることが認められるけれども、他方、証拠(乙二五及び二六)によれば、大阪市信用保証協会及び福徳銀行桜川支店においては、融資の際、通常預金通帳の提示まで求めることはないことが認められる上、大和鋼業に対する売上だけでも二〇〇〇万円以上に上る原告が、銀行融資を受けるために僅か一〇〇万円程度の売上を仮装したというのは不自然、不合理というべきであるから、原告本人の右供述部分をそのまま鵜呑みにすることはできない。

(3) 以上によれば、推計の基礎となる原告の本件係争年分の売上金額としては、別表二の1及び2記載のとおり、昭和六〇年分が二二七四万三八二九円、昭和六一年分が三一二一万七一九四円、昭和六二年分が二八六五万三六五五円を下らないと認めるのが相当である。

(二) 原告の本件係争年分の算出所得金額

本件抽出基準及び本件比準同業者の平均算出所得率を用いた推計方法が合理性を有することは、前記認定説示のとおりである。

そこで、前記認定の原告の本件係争年分の売上金額を基礎として、本件比準同業者の平均算出所得率を用いて、原告の本件係争年分の算出所得金額を算出すると、次の金額となる。

昭和六〇年分 六二九万三二一七円

昭和六一年分 八三三万四九九〇円

昭和六二年分 七九一万九八七〇円

(三) 原告の本件係争年分の特別経費の金額

(1) 本件係争年分の特別経費の金額についての当事者双方の主張は、被告については第二事案の概要の二1一3、二3及び三3記載のとおりであり、原告については別表四の減価償却費、給料賃金、利子割引料、地代家賃の各欄記載のとおりである。

そこで、以下、右の各費目について検討する。

(2) 減価償却資産の除却損について

原告は、減価償却資産の除却損として、別表五の1ないし3記載のとおり、車両、什器備品等の償却費を挙げているけれども、これらの資産について原告主張の取得時期及び取得価額を認めるに足りる証拠はないから、右償却費を必要経費と認めることはできない。

(3) 給料賃金について

原告は、実妹の松浦恵美子(以下「恵美子」という。)を帳簿書類の記帳及び原告事務所の清掃業務に従事させ、その対価として給料を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分があるけれども、証拠(乙一ないし三、二七の一ないし四、原告本人)によれば、恵美子は、昭和五九年一二月、訴外松浦培實(以下「培實」という。)と婚姻し、昭和六〇年八月には長女を出産していること、培實が勤務先に提出した本件係争年分の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書では、恵美子は控除対象配偶者とされており、昭和六〇年二月一日から無職で所得はない旨の記載もあること、原告の本件係争年分の確定申告書には、事業専従者の記載がないのみならず、昭和六〇年分の確定申告書においては、恵美子が扶養控除対象者とされていることが認められ、これらの事実に照らすと、原告本人の右供述部分は到底信用することができない。

(4) 利子割引料について

原告は、大阪市信用保証協会、大阪府信用保証協会及び国民金融公庫から別表六記載のとおり事業資金を借り入れ、別表七の1ないし3記載のとおりの利息を支払った旨主張するところ、証拠(甲四一ないし四四、七三、乙二三、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、右各金融機関から右事業資金を借り入れ、本件係争年分に右利息を支払ったことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、原告の本件係争年分の利子割引料は、次の金額となる。

昭和六〇年分 二五万六二八六円

昭和六一年分 三三万五八八〇円

昭和六二年分 三一万七四三九円

(5) 地代家賃について

本件係争年分の地代家賃の金額についての当事者双方の主張は、被告については第二事案の概要の二1(一)(3)、(二)(3)及び(三)(3)記載のとおりであり、原告については別表八の1ないし3記載のとおりであって、原告事業所の賃料部分については、当事者間に争いがない。

そこで、当事者間に争いのある駐車場代分について検討する。

まず、原告は、訴外西村スミエに対して別表八の1ないし3記載のとおり駐車場代を支払った旨主張するところ、確かに証拠(甲一二の一ないし一二、二五の一ないし一〇、七四、原告本人)によると、右駐車場代支払の事実を認めることができる。しかしながら、他方、証拠(原告本人)によると、原告が右駐車場に駐車していたのはボルボという名称の自動車であるところ、原告が事業用に使用していた自動車は、BMWであって、ボルボは故障等のためBMWを使用することができないときに使用することがあったにすぎないことが認められるから、右駐車場代は家事上の経費と解するのが相当であり、必要経費に算入することはできないというべきである。

また、原告は、訴外夙川グランドハイツ自治会に対して別表八の1ないし3記載のとおり駐車場代を支払った旨主張するところ、確かに証拠(甲二五の一一、三八の一ないし六、七四、原告本人)によると、原告が右自治会に対して駐車場及び駐輪場の代金として右金員を支払ったことが認められる。しかしながら、他方、証拠(甲七四、原告本人)によると、夙川グランドハイツは原告の自宅が所在するマンションであること、原告は、前記ボルボ、BMWのほか、ゴルフ、ホンダカプリオーネ、ズバル等の自動車を所有し、事業用以外の目的でこれを使用しており、事業用以外の目的で使用していたボルボをしばしば右マンションの駐車場に駐車していたことが認められるから、右駐車場代は家事上の経費と解するのが相当であり、必要経費に算入することはできないというべきである。

さらに、原告は、訴外阪神タクシーに対して別表八の1ないし3記載のとおりの駐車場代を支払った旨主張し、これを証するものとして、甲五の一〇八、五の一六〇、一八の七四、一八の一二四及び一八の一八一の各振込金受取書を提出しているけれども、右受取書そのものだけでは、右振込が駐車場代の支払のために行われたものであるかどうか不明であるのみならず、前記認定のとおり、原告は多数の自動車を所有し、事業用以外の目的で使用しているというのであるから、右振込金の支払をもって、事業遂行のために必要な経費の支払と認めることはできない。

そうすると、原告の本件係争年分の地代家賃は、次の金額となる。

昭和六〇年分 六五万四〇〇〇円

昭和六一年分 六五万四〇〇〇円

昭和六二年分 六五万四〇〇〇円

(四) 原告の本件係争年分の総所得(事業所得)金額

以上によれば、原告の本件係争年分の総所得(事業所得)金額は、算出所得金額から特別経費の額を控除した次の金額となり、いずれも本件更正に係る総所得金額を超えることになる。

昭和六〇年分 五三八万二九三一円

昭和六一年分 七三四万五一一〇円

昭和六二年分 六九四万八四三一円

三  争点3(原告の本件係争年分の実額による事業所得金額)について

1  被告の主張する推計の方法による課税に対し、原告は、本件係争年分の総収入金額及び必要経費の実額は、別表四記載のとおりである旨主張する。

前記二2(三)で説示したとおり、推計による課税は、信頼し得る調査資料を欠くために納税者の所得金額を実額調査することができない場合に、これに代わる補充的手段として合理的な推計方法によって所得金額を認定し、課税するものであるから、推計による課税処分の違法性が争われたときには、課税庁において、推計の必要性及び合理性を基礎付ける事実を主張、立証しなければならないものと解される、もっとも、推計による課税は、右のとおり、実額による課税に代わる補充的手段であるから、現実の所得金額が明らかになり、これが推計によって認定された所得金額を下回る場合には、実額による課税の原則に戻り、推計による課税処分は取消しを免れないというべきであり、この場合の現実の所得金額の主張立証責任は、納税者が負担すると解するのが相当である。

そうすると、本件のように、納税者が現実の所得金額を主張して、推計の方法による課税を争おうとするときには、納税者である原告において、その主張する総収入金額が収入のすべてであること及びその主張する必要経費が当該年に発生確定し、事業との関連性を有することを立証しなければならないというべきである。

2  そこで、本件において、原告の主張する本件係争年分の総収入金額が収入のすべてであるか否かについて検討する。

原告は、別表四記載のとおり、大和鋼業に対する売上金額が本件係争年分の収入のすべてである旨主張するところ、このほかに、本件入金分の収入が存在し、原告の売上金額が、昭和六〇年分については二二七四万三八二九円、昭和六一年分については三一二一万七一九四円、昭和六二年分については二八六五万三六五五円をそれぞれ下らないと認められることは前記二3(一)で認定したとおりである。

そして、原告は、本件入金分の売上該当性を否定するための証拠を提出する以外に、何ら本件係争年分の総収入金額を証するための立証活動を行っていないところ、かえって、証拠(乙二〇ないし二二、二三の一及び二、証人刀禰正晴、原告本人)によると、被告が反面調査により把握した前記売上金額は、大和鋼業からの回答結果及び本件口座への入金状況によって明らかになったものに限られており、しかも、被告が右売上金額に算入したのは、本件口座への入金のうち売上であることが確実と考えられる一〇〇万円以上の入金分に限定されていること、原告は、取引先から受領した決済手形を他の銀行で換金してから本件口座に入金しているため、本件口座の普通預金元帳から入金先を特定することができないこと、原告は、少なくとも本件係争年分以外の年においては大和鋼業以外の取引先を有していることが認められ、これら諸点に鑑みれば、前記売上金額以外にも収入があるとの疑いを拭い切れないというべきであり、本件全証拠によっても右売上金額が原告の本件係争年分の収入のすべてであると認めることはできない。

そうすると、原告の本件係争年分の実額による事業所得金額についての主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

3  さらに、右の点を暫く措くとしても、次のとおり、原告の主張する必要経費の実額を認めることはできないというべきである。

原告は、本件係争年分の外注工賃の実額について、別表四の外注工賃欄記載のとおりである旨主張し、これを証するものとして、給料台帳と題する書面(甲二の一ないし一二、一五、二八)及び領収証(甲五二ないし六八)を提出している。

確かに証拠(甲四八、七〇ないし七二)によれば、原告主張の従業員が原告の指示で大和鋼業において作業に従事していたことが認められるけれども、他方、証拠(甲五二ないし六八、乙二八の一ないし三、二九の一及び二、三〇、原告本人)によれば、右給料台帳に記載された基本給及び各種手当は、勤続年数や勤務状態等の通常これらの算定根拠とされる明確な基準に基づいて算定されたものではなく、専ら原告の一存で決められたものであって、その算定方法を検証することができないこと、原告は、給与等に係る所得税の源泉徴収を全く行っておらず、源泉徴収義務者に義務付けられている従業員の住所地の市区町村長に対する給与支払報告書の提出も怠っていること、原告の従業員の中には原告発行の源泉徴収票を添付した上、所得税ないし市民税の申告をした者がいるが、右源泉徴収票に記載された給与支払額は、原告主張に係る給与支払額と大きく掛け離れた金額であること、原告は、給料支払の際に、領収証等を受領しておらず、前記領収証(甲五二ないし六八)はすべて後日まとめて作成されたものであること、原告が雇用したと主張する従業員の中には、住所等の不明なものもあり、本訴において提出されている右領収証(甲五二ないし六八)は、一部の従業員の分にすぎないことが認められ、これらの諸点に鑑みれば、右給料台帳(甲二の一ないし一二、一五、同二八)及び領収証(甲五二ないし六八)から原告がその主張する金額の外注工賃を従業員に支払ったことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告の本件係争年分の実額による必要経費金額についての主張は、原告主張に係るその余の必要経費について判断するまでもなく、理由がないから、いずれにしても、これを採用することはできない。

四  結論

以上のとおり、本件においては、推計の必要性及び合理性が認められ、本件各更正の総所得金額は、右推計により算出した本件係争年分の総所得(事業所得)金額の範囲内であるから、本件各更正には何ら違法な点はなく、したがって、これに基づく本件各賦課決定にも違法な点は存しない。

(裁判長裁判官 下村浩藏 裁判官 福井章代 裁判官 清野正彦)

別表一

課税の経緯

<省略>

別表二の1

原告の事業所得の金額の計算

<省略>

別表二の2

売上金額明細表

<省略>

<省略>

別表三

同業者の算出所得率等一覧表

<省略>

別表四

原告主張実額

<省略>

別表五の1

昭和60年 減価償却費

<省略>

別表五の2

昭和61年 減価償却費

<省略>

別表五の3

昭和62年 減価償却費

<省略>

別表六

借入金一覧表

<省略>

別表七の1 年別支払利息一覧表

<省略>

<省略>

<省略>

別表七の2

(昭和61年)

<省略>

<省略>

別表七の3

(昭和62年)

<省略>

<省略>

別表八の1

昭和60年 地代・家賃

<省略>

別表八の2

昭和61年 地代・家賃

<省略>

別表八の3

昭和62年 地代・家賃

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例